セールのツイスト〜座間味レースの反省〜

解け始めた手縄の謎

zamami2013-2.jpg

風は、海面と接触する際の抵抗によって、相対的に上空の方が安定し風速も速くなる。
舟が止まっている場合は、海面の風も上空の風にもその方向に違いはないが、船が走るに従って、その速度と同じ且つ進行方向と逆方向の風が加味された「見かけの風」に変わってくるため、セールの上下では風の侵入角度に違いが発生する。


図ではやや誇張をして真の風や見かけの風を表現してみたが、セール上部の見かけの風の方がその角度がより後ろ側である事が分かる。そのため、セールの上側はより後ろよりの風に対するトリムとなり、下は逆に手縄を引き気味にするのが正しいと言う事になる。フーの上部では風を逃がすと教わった事の理由はここに起因するのだろう。

見かけの風.jpg

この、セーリングに詳しい人なら誰もが知っている「セールのツイスト」が、帆掛けサバ二においても適切なセールの形である事に気づいたのは、昨年のレース中のクルーからの指摘によるものである。それが全くお恥ずかしい限りである事を認めつつ、それでもまた改めて帆掛けサバ二のフーの形状や手縄の張り方についての理解が進んだ気がして一人嬉しく思っているのだ。

以前このブログでも書いた様に、セールの下部は主に推進力を得る為に働き、上部はヒールの制御に使うべきなのではないかと思っていた時期もあったが、それは恐らく間違いではないにせよ、上記の様な理解の上に成り立つべき一つの手段に過ぎないなのだろう。
今回のレースの直前に調達した付け足しの帆の事を考慮して、フー全体に亘って手縄を調整してツイストさせた事によって、今回のレース中は驚く程に安定したセーリングを満喫する事が出来た。もちろん、上り性能に関しても何の問題も感じない。

ところでこの様に下部を引き込む事によってセール全体の風圧中心(CE)は下がるため、舟が傾いている場合は船体の縦方向の抵抗との横方向のずれは減少する(真上から見た場合の距離が縮まる)事になる。この結果、自ずとウェザーヘルムは軽減されるはずであり、実際に一昨年の座間味レースで風に対して上りすぎる綾風の制御にあれほど四苦八苦した時のセールの面影は、今ではほとんど残っていない。バタバタと行った急造のワタの追加は、実にいろいろな事を私に気づかせてくれた事になる。

また、先輩チームの海想の皆さんが、一番下のフーザンから独立した手縄を引いて、個別にトリム出来る様にしていると聞いた事があるが、例えば一番下のワタを少しフリーにする事によってCEを相対的に上方に持って行き、必要に応じてウェザーヘルムを利用する、あるいはその逆を行うと言った事も出来るのかもしれない。


船の傾きとボートスピード

セールボートは傾いて走る事が当たり前だと、何の疑いもなく感じている私の様なセーリング出身者と、船が傾く事によって漕ぎのパワーのロスにつながると考えるパドリング出身者の両方を抱えるチームの中で、帆掛けサバ二ではどちらを優先させるべきなのかという議論が出て来ているという事を、座間味レースの前夜祭で耳にした。これは、時を同じくして当チーム内でも発生していた議論でもある為、帆掛けサバ二関係者が同じような疑問や問題に同じようなタイミングで対峙しているという事を実感出来て嬉しく思えたエピソードである。

帆掛けサバニ乗りの誰もが感じている様に、強い風が吹いた時のセールのパワーは凄まじく、漕ぎが却って抵抗になる事さえもある。一方で、舵取りにとって微風の際のクルーの漕ぎ程頼もしく有り難い物はないから、一概にどっちがどっちとは言えないという事はまずは前提となるべきだろう。私は多少のヒールがあってもパワーを失わないような漕ぎが出来るチーム程、同一条件下での競漕の際にはより前に出れるという、差し障りのない意見を持っているに過ぎない。

ただ一点だけ、舟を適切にヒールさせる事が、どの様にボートスピードの向上に活かす事が出来るかという観点からの考察をしてみたい。

以前、石垣島でサバニの模型を製作されていた、故金城さんの奥さんから譲って頂いた大切な模型を引っ張りだして来て、フラットな状態に加えて風下側と風上側にそれぞれ約20度傾けた姿勢での写真を撮ってみた。それぞれ風は同じ様に吹いていると仮定すれば、いかに風下側にヒールした状態のでセールの面積が大きく見えるか、これほど一目瞭然な事はないだろう。

漕ぎが大切な要素である帆掛けサバ二であっても他のセーリングボート同様に、少し風下側にヒールしている方が、よりボートスピードを得られるはずだと常日頃考えているのはこのような、極めて単純な理由によるものである。


コントロール、そしてそれ以前のタクティクス

さて、チームの皆さんには、スタートでの接触によるワイルドジャイブについて、きちんと説明をしておく必要があるだろう。

実は今回のレースでは、幸運な事にメーカーのご厚意によってウェアラブルカメラを船体に搭載していたので、事の経緯を映像によってつぶさに振り返る事が出来た。



それによれば、スタートダッシュの成功に気を良くして上位の集団を目指して舵をきった綾風は、サーターヤの直前でバランスを崩して逆ヒールの状態になって風を失い、少しだけ当方が勝っていると過信していたボートスピードが一時的に落ちてしまっている。さらに左右の漕ぎのパワーの差によって舟は風下側に落ちて行き、どんどん相手の進路を防ぐ形になったのである。

通常のセールボートでのレースでは、ブランケットゾーンを使って相手の風を奪う事は許されていても、風下の艇の進路を塞ぐ事は許されない。従って、サバニ帆漕レースにヨットレースのルールを適用したとしたら、この接触は明らかに当チーム、いや私の操船のミスに起因する事であり、表彰式の際にわざわざ謝罪に来てくれたサーターヤの皆さんには何の落ち度もないばかりか、むしろこちらから迷惑を詫びるべき事である。この場を借りて心からのお詫びを申し上げたい。

最後にコース取りについて。
別のチームの方から以前、実際に潮の状況によっては、黒島の北を廻った方が有利だったと聞いた事があった。いつもは風に流されて引き寄せられてしまう黒島の北側はどうなっているんだろう、潮はどうなのか、一度通ってみたいなぁ、という素朴な興味もあった事も認めなければならない。

今回、黒島の北側を通る事を判断したのは、いつもレースに際しての各レグでのクルー配分や戦術で意見が合う事の多い副キャプテンも、シンクロする様に私と同じ事を考えていた事が大きく後押しをしたからである。

スタートで出遅れた私たちは、自分たちでも目を疑う程に、順位とフリート内での位置を回復し、黒島を抜けた時の順位を楽しみにしながら意気揚々と再度フリートとミーティングする事になった。結果、一度は追い抜いたチームが遥か前方に霞んで見えていた事は、今となっては言うまでもない。

チーム綾風の皆様、馬鹿な艇長をどうかお許し頂きたい。そして綾風が北に流されていくと心配してくれた、当時その海域にいたチームの皆さんに、改めてお礼とお詫びを申し上げたい。



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このページは、津輕良介が2013年7月 3日 12:15に書いたブログ記事です。

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