サバニの進化と未来(その4)

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現代、そしてこれからのサバニ

サバニ帆漕レースは、私を含め多くの海好きにサバニによる帆漕の醍醐味を教えてくれた素晴しいイベントである。

ただ、このレースの参加者の中にもしも、アウトリガーを持たず且つ舵エークのみで操船する古式のサバニが絶対であるとし、それ以外のサバニを否定的な観点で捕らえる人がいるとすれば、それは少し早計かもしれない。


確かに、アウトリガーを装備する事によって得られた安定性を活用して、より大きなセールを艤装する事は可能である。大きなセールを使う事によって、例えば同じ風速であれば間違いなく船足を向上させる事が出来るからレースをより有利に展開出来る。また、舟の安定性故に、パドリングに精通しているものの必ずしも帆走には熟練していない様なクルーによるチーム作りも可能かもしれない。

しかし、宮古島久松の海人の言葉にある様に、本当にアウトリガーがサバニにとって異質な物であるとすれば、アウトリガーを彼等が選択して来なかった理由は必ず存在する筈であり、その本質的な何かを理解してその先にある物を習得する事によって、ひょっとすると古式サバニが総合優勝を狙う事も可能になるのではないかと思うのである。

そう言った観点から考えた場合、現時点で古式部門とアウトリガー装備部門とにクラス分けを行ない、間口を拡げつつサバニ愛好者や経験者を増やそうとする、サバニ帆漕レースの実行組織の柔軟な運営体制は素晴しい。レースの勝ち負け以外に、古式部門の参加艇はサバニの本質を追求し、アウトリガー部門はこれからのサバニの在り方を探求出来るからである。


さて、サバニが単船である理由を、私なりに思いつくままに列挙してみた。

  • アウトリガーの安定性を必要としなかった。
  • アウトリガーが何らかの原因で業務の妨げになる事があった。
  • 美的感覚に合わなかった=格好悪かった。
  • 単船でのバランス感覚の習得を優先した。

詳しくは、次回糸満にお邪魔した際、或は石垣チームのキャプテンに教えを乞うしか無いのかもしれないが、いずれも少なからず正解の可能性のある解答ではないかと思えて来る。習練を重ねてバランス感覚に富んだ海人はアウトリガーを必要としなかったであろうし、私の様な駆け出しであったとしてももしチームでメンバーを固定して何度も繰り返して訓練すれば、多少の波浪は超えられるであろう実感を持っている。網を取り込んだり大きな魚を引き上げる際に、それが片方の舷側に限定されてしまう事は時間のロスになりかねない。また、台風等の時化に遭遇した時にはサバニをひっくり返して波浪が収まるのを待ったとも言われているが、アウトリガーがあるとひっくり返す事と復元する事により多くの労力を必要とする。美的感覚に関しては推して量るしか無いものの、何らかの理由でアウトリガーが破損した場合に操船が出来ないようであれば生死に関わる事故にもつながる。

このように一見、正解に近い様にも思える理由ではあるが、しかしながらこれらの何れも、他の地域でアウトリガーが普及した事と琉球列島で選択されなかった事を説明出来るだけの説得力を持つものではない。


順風のチームの皆さんのご厚意に甘えて修理をして頂きながら、再び海に帰る時を待つ私たちのサバニ。

手を入れて頂いているKさん曰く、本来はエンジンを搭載する事を前提に作られたサバニではないという。「このサバニならアウトリガーは要らないかもしれない」と自らの事の様に嬉しそうに私に教えてくれるその言葉に二重に感激する。


そもそもエンジンを搭載する事を前提に作られたサバニの場合は、バランサーでもあったエンジンを撤去することによって船そのもののバランスが破綻することは当然であるから、アウトリガーの必要性は否めない。従って、我々にはサバニが単船だった理由を更に追求する機会が与えられた様なものではないかと思うのである。初心者と海に出る時には、安全を優先して堂々とアウトリガーを付ければ良い。


サバニは、この様に万人が楽しむ事の出来る極めて懐の深い文化である。琉球が、そして日本が世界に誇れるものであると言っても決して過言ではない。そしてその様な先人の知恵の結晶であるサバニを一艇保有している事と、サバニを通じて実に多くの人と出会える事に、無上の喜びとそして深い感謝の念を感じるのである。

何らかの縁でこのエントリーを見つけて下さった方と、このサバニで一緒に海に出れる事があれば、これほど幸せな事は無い。



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アウトリガーの有無 太平洋の南の島々のみならず、帆走する小型船舶の多くはほぼ例外なくアウトリガーを持つか、カタマラン、或いはトリマランである。南西諸島にお... 続きを読む

コメント(10)

私も帆かけサバニを楽しんでいるひとりです。
今度とも共に帆かけサバニを楽しみましょう。

昔の帆かけサバニにアウトリガーがついていなかった。
それはその方が波に強く安全だと昔の海人は長い海との関わりの中で習得したのではないでしょうか?ヨットが単舟の方が波に強いのと同じように!
ただ現代において、その技術が継承されていなくて、全く初めて補助輪無しの自転車に乗ろうとしているようなものではないでしょうか?とても乗れる代物ではないと、こうした疑問が浮かぶのではないでしょうか?
ある沖縄の研究者がプライドのようなものがあって(格好悪い)そういうものを付けなかった。という事もあったのではないか?というコメントがありましたが、そのような事は全くないと思います。命を懸ける自然に対して格好やプライドなど入り込む隙はないと思います。
いつの時代でも安全は何より優先されるだろうし、沖縄の海人はその最も安全な方法として選んだのが単舟のサバニだったのではないでしょうか?今の私達にその技術が失われているただそれだけなのではないでしょうか?如何でしょう?

こんにちは。
GWにお嬢様に砂遊びの楽しさを教えてもらった糸満舟が大好きなおばちゃんからのツガルさんへのおススメ本(学会誌)です。

沖縄民族学会の「沖縄民族研究24号」
(1500円・送料込)
それと昔のサバニ漁の映像を観るといいと思いますよー。

手元にあるビデオではないのですが、『NHKアーカイブス ふるさとの伝承 糸満の追い込み漁』には戦前のサバニ漁の映像が結構入っていました。
NHKの公開ライブラリー施設まで足を運ばなければなりませんが、見応えのある40分番組でしたよ。
(ビデオかDVDが欲しい~)

モリ様
コメントを頂きまして誠に有難うございます。
サバニに関しては新参者ではありますが、以後宜しくお願い致します。
さて、アウトリガーに関してはその後も事あるたびに考えているのですが、私個人的な感覚でいえば、
1>漁の邪魔になる
2>必要なかった
というのが、正解ではないかと思い始めていました。そういった意味では、頂いた「より安全だった」というご意見は目から鱗でもあります。
ただし「何故沖縄のサバニにだけアウトリガーが無いのか?」という問いに対しては、サバニの舟形や製法がそれだけ優れていたから、という補足も必要なのかもしれませんね。
ところで、台湾沖のタンカーとの衝突事故から生還された方でしょうか?お名前が一緒なので、もしやと思いました。あの朝、寝ぼけ眼で開いた新聞の記事が目に飛び込んで来た時には我が目を疑いましたが、その後のご無事のご様子を伺い、安心を致しておりました。

その節は砂遊びの娘の面倒を見て頂きまして、大変有難うございました。学会誌は早速母校の先輩に入手の相談をしてみました。
またビデオの件も再度の質問になり申し訳ありませんが、詳しく教えて頂けませんでしょうか?
ところでサバニの模型も6~7割方完成です。お目にかける事が出来る日が楽しみです。

カチコさん、情報を有難うございました。
NHKアーカイブスですか...。販売していれば良いのですが、何とかビデオを手に入れられないか、方法を模索してみます。

はじめまして!サバニ関連の記事を調べていたらアウトリガーの話が出てきたので私の知ってる範囲でのお話をしたいと思います。
ひと昔前までのサバニにはやはりアウトリガーというものは存在すらしていません。代わりに竹を船の横腹につけて転覆を防いでいたようです。これは簡単に取り外しが可能で波が少ない時は外し、波が多い時はつける、このお話は宮古の80代の海人と宜野座の海人のお話を参考にしました。(共にサバニ漁の経験者です)現在のレースはサバニの本来の姿よりもカヌーやカヤック、ヨット等の要素が取り入れられている部分があります。否定的な見方があるのは古来の伝統文化の継承の中でアウトリガーは存在しなかったという事実がそうさせているのではないでしょうか?私個人の考え方としては転覆を防ぐためにアウトリガーは必要と考えます。しかし、古式以上の浮力、安定性が影響を及ぼす事も明白な事実ですので古式<アウトリガーという現在の表彰形式を古式>アウトリガーという形に変えれば特に問題はないと思います。古式に乗った人は分ると思いますがかなり難しい技術です。練習で挑戦してみましたが無理でした。帆が風を掴みスピードに乗った時約30度近く傾き、(喫水が船ゴマギリギリでめちゃくちゃ怖い)それをクルーのバランスで安定させながら尚且つ漕ぐ、今の私達にはできませんでした。サバニ古来の伝統文化に近づくのは容易な事ではありませんが近い将来是非挑戦したいものです。以上ご参考になればと思い投稿してみました。長々の文章申し訳ありませんでした。

「僭越ながら」様
投稿を頂きまして、誠に有難うございます。
昔のサバニにアウトリガーが無かった事は色々な方に教わる中で判って来た事ではあるのですが、何故無かったのか?という事が純粋に私の最大の関心事になっていました。
私個人的には、昨今のレースでアウトリガーを許可する事によってその間口を拡げようとするレース委員会の方々の工夫は素晴しい物だと思っており、従ってどちらがより良い、或いはすごい/偉いという考えも持っておりません。
レースのみならずサバニに関しては、それぞれのチームがそれぞれのテーマを追求すれば良いと思っております。
もしかしてサバニ帆漕レースに出られている方でしょうか。
私たちは来年は、後ろの固定舵を取り払って古式部門でレースに出るつもりです。仰る通り、アウトリガーも無く手舵による操船は容易ではありませんが、この挑戦自体を私たちのテーマとして取り組んで行きたいと思っています。
どうぞ宜しくお付き合い下さいます様、お願い申し上げます。
2009年度綾風艇長 津輕良介

何気ない投稿にここまで丁寧にお返事頂きまして恐縮です。
津輕さんのお話の中でどちらがすごいかの問題という事についてはチームの追求するテーマだと思います。その辺は私も同じです。しかしながら古式創設の経緯については数年前から紆余曲折があったのも事実です。創世期からの実行委員もカヤック、ヨット、カヌーの経験者が多く、我々ではありませんがレースに参加される諸先輩方が艇長会議や実行委員との古式創設の激しい議論でここ1・2年ようやく古式が認知されるようになってきた経緯を見て心苦しい時代があった為、正直不信感はぬぐえませんでした。
私どもチームについてですが以前数回ほどアウトリガーなしで大会に参加していました。しかし、「ダナー」を捨てて「てぃかじ」での挑戦はかなり厳しくやはり先人の卓越した技術の継承には今なお至っておりません。技術や知識ははいろいろ諸先輩方から習う事が出来ましたがいかんせん修業中の身、自分も頑張りますが津輕さんの大いなる挑戦にも目一杯応援してます!いつか一緒に練習もしてみたいですね。それでは・・・(またまた長文すいません)

「僭越ながら」様
度々のご投稿、大変恐れ入ります。
私は生憎と第10回を数えるまでになったレース運営の経緯は全く知らず、レースに参加させてもらっている事だけで有難く、又心から楽しませてもらっております。そう言った意味では無責任な発言をしてしまったかもしれません。お許し下さい。
もちろん私も舵エークをきちんと使える等とは口が裂けても言えませんが、その技術を習得しようとする過程を、幸いにも今年から参加してくれる様になった地元の学生と共有する事で、少しでも先人に近づき、また水の泡程の微力であったとしても継承の一助となれればと夢想しております。
一緒に練習、素晴しいですね!何時か実現出来る日を楽しみにしております。

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このブログは、沖縄の伝統帆漕漁船「帆掛けサバニ」の機能美や性能に魅せられた私たちの日常の取り組みを、記録として残している物です。
知識も経験も十分でない駆け出しの私たちが情報発信をする等という事は恐れ多くて出来ませんが、木造舟で独特なセーリングプランを持つ帆掛けサバニの保守や、操船等に関する疑問、解決手段等の私たちなりの見解も、この場で発表出来ればと思っています。
もしもこのブログを介して、既存のレースチームはもちろんの事、帆掛けサバニに興味を持つ人達の間でも情報交換やディスカッションが出来たとしたら、これに勝る喜びはありません。

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このページは、津輕良介が2009年3月25日 00:00に書いたブログ記事です。

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